札幌地方裁判所 昭和51年(ワ)1367号 判決
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【判旨】
二請求原因第(二)項1の主張(民法第七一七条の責任)について
本件事故現場が、溜池もしくは旧灌漑溝であることについては、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない(なお、甲第二号証(死体発見報告書)、同第三号証(死体見分調書)中には、本件事故現場を、旧灌漑溝と記載した部分があるが、弁論の全趣旨と被告本人尋問の結果を総合すると、右用語は、本件事故直後に、係警察官が、単に事故現場を仮称・特定するために用いたものにすぎず、特段、右現場が旧灌漑溝であるか否かについて調査したわけではないものと認められる。)。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、請求原因第(二)項1の主張は失当である。
三請求原因第(二)項2の主張(民法第七〇九条の責任)について
当事者間に争いのない事実、<証拠>および弁論の全趣旨を総合すると、次の諸事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
すなわち、本件事故現場付近の地形と状況は、概要別紙図面(編注、略)(二)、(三)記載のとおりであり、山岳畑特有の凸凹地であつて、主として家畜の放牧、採草地として利用されている所であること、本件事故現場は、被告所有地内の、私道から約三一メートル入つたところにあり、すりばち形の一方が欠けたような形の低湿地で、約五〇〇メートル先の中の沢まで徐々に深くなる沢に通じており、融雪期においては、雨水、融雪水の始発個所というべき地形上の位置関係にあつたこと、右事故現場は、低地であるうえ、地下水も若干湧出するため、夏場でも水溜状になつてはいたが、危険な個所では全くなく、子牛馬が運動のため自由に出入するところであつたこと、しかしながら、融雪期には、その気象条件により、一定しない変化をもつてかなりの融雪水が集まりこれが前示の沢を伝つて川に注ぐ状況が現出されること、そして、本件事故当時(四月一〇日)は、本件事故現場に、巾約2.5メートル、長さ約五メートル、深さ約一メートルの水溜が出現していたこと、ところで、本件事故当日、亡広幸(当時三才)は、姉(当時六才)と共に午後〇時三〇分頃遊びに出かけ、同日午後一時頃、雪上を歩いて本件事故現場付近に至り、前示の水溜に近づき誤つて同所に落ち込んだものと思われること、然るに、姉は、亡広幸の異常を直ちに両親等に知らせることをしなかつたため、同日午後六時五〇分頃、札幌南警察署に捜索願が出されて付近一帯を一せいに捜索した結果、同日午後八時頃前示水溜の中で死亡しているのが発見されたこと、本件事故当時における右水溜は、もし、幼児ないし年少の子供が転落すれば、死亡するに足りる深さと大きさを有し、まわりの雪も人の重みで崩れ易い状況にはあつたこと、しかしながら、右のような危険な状況は、融雪期においてその気象条件により一定しない変化をもつて発生する自然現象であり、右と同様の危険な現象は、山岳農村においては殆どいたるところに発生する可能性があるといつても過言ではないこと、したがつて、事故防止のためには、何よりもまず、保護者の不断の注意と、子供に対し危険から身を守る術を徹底して教えこむことが不可欠であり、自然現象により発生する危険個所のすべてについて柵を設ける等することは著しく困難であること、本件においても、もし、両親である原告らが亡広幸の動静に十分注意し、姉に対し、万一異常が発生したときはすぐ知らせるように教えるなど保護者として必要な措置をとつていたら死亡事故の発生は防げたのではないかと思われること、そして、前示のように、本件事故当時存在していた水溜も、融雪期を過ぎれば自然に水も減り、やがて単なる低湿地帯にすぎなくなること、また、本件事故当時、本件事故現場付近で子供らがよく遊んでいたというような特段の事情も認められないこと、以上の諸事実が認められる。
右認定の諸事実を総合して考えれば、本件において、被告が、本件事故現場のまわりに柵を設ける等して同所に子供が近づけないようにし、もつて、事故の発生を未然に防止すべきであつたという法律上の義務を有していたものと認めることは困難であり、したがつて、被告に対し民法第七〇九条の責任を問う原告らの主張は失当である。
(増山宏)